ヒトのからだの中を「見る」
■からだの中を見ることの飽くなき探求心
かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチや、江戸時代に初めて
西洋(オランダ)の解剖書を翻訳、「解体新書」を発刊した
杉田玄白は、ご遺体の観察を積極的に繰り返したといいます。
ヒトのからだの中を見たい、物事の真理を知りたい、という
飽くなき探求心からでしょう。
古今東西を問わず、医療に従事する方にとって、如何にヒト
のからだの中を「見る」ことが念願であったかが分かります。
1895年、レントゲン博士が「X線」を発見。初めて、ヒトの
からだの中の「可視化」に成功します。その後、X線CTや
MRI、PETなど様々な検査機器が開発、からだの「可視化」※
技術は飛躍的に進みます。
現在、「生きたヒト」のからだの中を「見る」こと、つまり
は「可視化」することは、不可能ではなくなりました。
※「可視化」とは
直接「見る」ことができない現象・事象を
「見る」ことのできるもの(画像・グラフなど)にすること
■「肉離れ」を目で見ることは、実は難しい
私たちに馴染み深い「レントゲン」。実は、「レントゲン」
には「映りやすい組織」と「映りにくい組織」があります。
■映りやすい組織
:骨・肺・心臓・その他臓器(造影剤を入れると血管も可)
■映りにくい組織
:筋・筋膜・関節軟骨・腱・靭帯・脂肪組織
レントゲンでは、からだの組織の全てを「可視化」できません。
特に、筋や靭帯、腱などの「軟部組織(なんぶそしき)」と呼
ばれる組織を可視化する検査機器としては、不向きといえます。
した撮影手法であることから、検査時には少なからずの放射線
を被ばくすることになります。安全性の観点から、繰り返し検
査を行うことが制限されるという特徴もあります。
一方、軟部組織の観察を得意とする検査機器に「MRI」があり
ます。MRIは、筋や靭帯、腱などを可視化することに優れた機
器であり何より、放射線被ばくの危険性がなく、安全性に優れ
ます。
その為、筋や靭帯、腱などを損傷した際には、レントゲンでは
なく、MRIを用い、状態を「可視化」するのが良いと考えられ
ます。
しかし、「MRI」は大変高価な機器の為、検査には専門機関を
受診する必要があります。また、検査には予約が必要であり予
約状況により、撮影日まで日数がかかる場合もあることから簡
便性という点では、やや難ありといえます。検査費用も高額と
なりやすく、一般的な検査とはなかなかいえません。
「肉離れ」という言葉を耳にしたことがある方は多いと思いま
す。しかし、医療機関で「肉離れ」の状態を、実際に目にした
ことがある方は少ないのではないでしょうか?
実は、筋や靭帯、腱などの軟部組織を安全に、簡便に可視化す
ることは意外と難しいのです。
■軟部組織の観察に優れた検査機器 「エコー」
妊婦さんに用いる検査機器として有名なエコー。正式名称は
「超音波画像診断装置」といいます。
このエコー。実は、筋や靭帯、腱といった軟部組織の観察に用いる
ことが可能です。下の写真は、お腹の筋肉をエコーで観察した際の
写真です。
エコーには、次のような特徴があります。
☑ 筋や靭帯、腱といった軟部組織の観察に優れている。
☑ 放射線被ばくの危険性がなく、安全に、何度も、使用できる。
(妊婦さんに使用できる!)
☑ 撮影時間を必要とせず、簡便に撮影が可能。
☑ からだの動きに合わせ撮影することができる為、
からだの動きを可視化することができる。
このように、レントゲンやCT、MRIといった検査機器の弱点
を全てカバーできる、軟部組織の観察に最適といってもよい
検査機器、それが「超音波画像診断装置」、通称「エコー」
なのです。
尚、骨や関節、筋のことを「運動器」といいますが、妊婦さん
とは異なる使用をすることから、運動器の観察に用いるエコー
を「運動器エコー」と称します。
■軟部組織の可視化がもたらす、新たな局面
今まで困難であった筋や靭帯、腱などの軟部組織の可視化が
運動器エコーにより可能となった今、医学(特に整形外科領域)
は新たな局面を迎えています。
生きたヒトのからだの中を見る時代 から
生きたヒトのからだの動きを見る時代 へ
感覚に頼った軟部組織に対する治療 から
根拠に基づく軟部組織に対する治療 へ
根拠が明確ではない治療期間・治療頻度の説明 から
明確な根拠に基づく治療期間・治療頻度の説明 へ
軟部組織に対する運動指導の在り方が、大きく変わろうとしています。
からだへの飽くなき探求心、向学心、そして何より学問の成熟と社会
への貢献を信じ全力を費やしたレオナルド・ダ・ヴィンチや杉田玄白
のような気概をもって、運動器エコーによる軟部組織の可視化がもた
らす新たな世界を、自分なりに追及していきたいと考えています。