猫背姿勢は、からだに悪い姿勢とは言えない

■猫背姿勢は、からだにとって悪いのか?

「猫背姿勢は、からだに悪い」

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猫背は健康に悪い為、まっすぐな姿勢に矯正されるべきというのが常識です。

はたして、この考え方は正しいのでしょうか?

 

2015年、Pooriput氏ら※)が興味深い論文を発表しました。

 

Pooriput氏らは、座る時間が長くなるにつれて感じるからだの不快感や、体幹の筋活動が、3つ姿勢(前傾姿勢、直立姿勢、猫背姿勢)毎で異なるかどうかを調べました。

結果、他の姿勢に比べて、猫背姿勢が、最もからだの不快感が少なく、体幹の筋活動が少ない事が分かりました。

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体幹の筋活動が少なかったという結果は、からだのエネルギー消費量が少なかったことを意味します。つまり、猫背姿勢は、どの姿勢よりも、からだにとって快適で楽な姿勢だったのです。

 

猫背姿勢が、からだにとって楽な姿勢であったことには次のような理由があります。

 

 ■猫背姿勢が、からだにとって楽な姿勢である理由

人は、からだを支える際、以下の2種類の組織を適度に使い分けています。

 1)筋・筋腱

:筋の収縮活動により、関節を安定させ、からだを支えます。意図した姿勢が取れる反

面、筋の収縮活動によりエネルギー(ATP)を消費するのが特徴です。

(専門用語で「収縮性要素or動的安定機構」といいます。)

 

 2)関節包・筋膜・靭帯

:主に結合組織で構成され、伸張刺激に対する張力により、からだを支えます。エネル

ギー(ATP)消費を伴わない反面、組織が伸張される時しか張力が発揮できない特徴が

あります。(専門用語で「非収縮性要素or静的安定機構」といいます。)

 

猫背姿勢の場合、背中全体が丸くなる事で、背部の筋膜や背骨後方に付着する靭帯、関節包などが伸張され、張力が発生します。この張力は、からだを支えるのを助ける為、筋・筋腱はからだを支える役割は軽減し、収縮活動は低下、エネルギー消費量が低下します。

 

直立姿勢の場合、筋膜や靭帯、関節包は伸張されず張力が発生しない為、筋・筋腱によりからだを支える必要があり、収縮活動が上昇、エネルギー消費量が増加します。

 

 猫背姿勢は、長時間、同じ姿勢を続ける場面(例、パソコン操作、読書)で見られます。これは、長時間からだが負担を感じる事なく作業を行う為に、からだが無意識に選択した省エネ戦略と考えられます。

 

 

■長時間、猫背姿勢のままでいる事が問題

ただし、背中の筋膜や背骨を支える靭帯、関節包などの組織には痛みを感知するセンサー(受容器)が豊富に存在すること、猫背姿勢は、頸部を過剰に反らせる為に、頸部の関節や神経へのストレスが高まりやすいことから、長時間、猫背姿勢を続けることはやはり健康に良くありません。

 

 

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(※圧迫骨折やヘルニアなど重篤な病気が存在する場合は、時間に関係なく猫背姿勢が問題になる場合があります)

 

長時間のパソコン操作や読書などを行う際には、まずは背筋を伸ばして行う(収縮性要素を利用)、疲れたら猫背姿勢をとる(非収縮性要素を利用)、その後、椅子から立つ、からだを横にして休める、歩くなど短時間に姿勢を変化させるようにしましょう。

 

 

<文献>

※Pooriput,et.al. Perceived body discomfort and trunk muscle activity in three prolonged sitting postures. Electromyography,Pain, Sitting posture.J Phys Ther Sci. 2015 Jul;27(7):2183-2187