積極的休養のススメ
■積極的休養(active rest)とは
あまり、聞き慣れない言葉かも知れません。
積極的休養とは、疲労回復を目的とした比較的強度の低い運動1)をいい、スポーツ場面で練習後に行う軽いランニングやストレッチなど、いわゆる「クールダウン」の事をいいます。
運動後に軽度の運動(積極的休養)を行う事で、からだの血液循環が良好となり、体内に蓄積された血中乳酸が早期に消失する為、疲労回復効果が高いと考えられています。
この積極的休養の疲労回復効果について、近年様々な研究が報告されています。
■積極的休養(active rest)の疲労回復効果
「内田-クレペリン検査」という検査法があります。
この検査は、簡単な一桁の足し算を1分毎に行を変えながら、5分間の休憩をはさみ前半と後半で各15分間ずつ合計30分間行います。全体の計算量(作業量)、1分毎の計算量の変化の仕方(作業曲線)と誤答から、受検者の能力面と性格や行動面の特徴を総合的に測定するという検査です。
2015年、本多氏2)は、この「内田-クレペリン検査」を用い、積極的休養の効果を調べました。30名の大学生を対象に、5分間の休憩の間に座位で5種類のストレッチングを実施した群(積極的休養群)と安静を保った群(安静群)との2群に分け、作業パフォーマンスや自覚疲労の変化について調べました。
すると、5分間5種類のストレッチングを実施した積極的休養群は、安静群に比べ、エラー率が低下、不快感得点が低く自覚疲労が回復する傾向にある事が分かりました。
また、和泉氏3)は、30名の大学生と大学院生を対象に、「暗算課題」を用いて積極的休養の効果を調べています。
先の報告と異なり、安静を保った群、積極的休養を行った群、積極的休養と安静を両方行った群の3群に分け効果を調べており、積極的休養と安静との組み合わせの効果について調査している点が興味深い点です。
結果、最も暗算の平均回答時間が短かった群は、積極的休養と安静を両方行った群であり、その次が安静を保った群、なんと最も平均回答時間が長かったのが積極的休養群であるという結果でした・・・。残念!
ただ、積極的休養課題に用いたのが右手での3分間のタッピング課題を、難しいと感じる被験者が多かったことから、積極的課題の負荷設定が効果に影響したのではと考察されており、どうも積極的休養の負荷が高いと逆効果になるようです。
■座位(座る)について考える
さて、私達日本人は、世界でも有数の座位中心のライフスタイルであることは別のブログでお話しました。
(ブログ「Sitting is the New Smoking」をご覧下さい)
これからの時代、からだを健康に保つ為には、「座る」という行為の理解を深め、座位中心のライフスタイルにおける、有効な積極的休養の在り方について考えることが大切です。
座位を理解する上で、理解しておくべき重要な点が1つあります。
それは、「座位とは運動である」いうことです。
私達のからだには、常に重力という外からの力が作用しています。
その為、座位姿勢を保つためにはまず重力という外力に勝たなければなりません。
その重力に打ち勝つ為の力源となるのが筋肉です。
■同時に求められる2つの課題
背筋を伸ばしきれいな姿勢で座った状態で時間が経つとからだ疲れるのは
「重力にうち勝ち座ること」と「背筋を伸ばして座ること」
これを2つを同時に腰や背中の筋肉がこなしているからです。
猫背の姿勢が楽なのは、後者の背筋を伸ばすことをやめ、筋膜や関節包、靭帯などの非収縮性要素と呼ばれる組織に姿勢を委ね、重力と戦うことを放棄するためです。
■腰部へのストレスを分散させる為に、動き続けないといけない
さらに、じっと止まった姿勢のままであれば、背中や腰の筋肉に循環障害が生じ疲労物質が蓄積され、かつクリープ現象(椎間板から水分が脱出し、椎間板が変性、強度を保てなくなる現象)が起こり、更に筋が負担を感じ、痛みが増悪するという悪循環が生じます。
その為、座っている時には、
腰部へのストレスを分散させるために、実は小刻みに動き続けています
以上のことより、(どれだけ動いていないように見えても)座位とは運動であると捉える必要があります。
■座位に対する積極的休養、それは「寝ること」
座位時間が長いということは、座位という運動を長時間続けていることを意味します。
例えるならば、フルマラソンを行っているようなイメージでしょうか。とにかく腰や背中の筋肉は疲労困憊、もはやこれ以上の力発揮は難しい、という状態の一歩手前かもしれません。
さぁ、そんな状態で積極的に運動を行うとどうなるでしょう?
余計に筋肉はストレスを受け、かえって痛みが強くなるのかも知れません。
先の報告で、積極的休養には、5種類のストレッチが有効であったと紹介しました。
ストレッチングとは、筋肉を一定時間伸長することで筋肉を弛緩させ、循環状態を改善し疲労回復効果を期待するアプローチです。
つまり、「腰や背中の筋肉を積極的に休ませることが有効」と報告しています。
まさに、積極的休養!ただし、冒頭のような軽運動ではなく、安静ですが。
しかし、筋肉を休ませることが有効であるならば、ストレッチよりももっと効率的で楽な方法があります。それは・・・
何もせずに上向きで寝ること です
横にねる、たったそれだけで、からだは重力と戦う必要性から解放されます。
座り続ける為に頑張り続けた腰や背中の筋肉はお役御免、休むことができます。
それだけではありません。なんと、背骨を支える大事な組織である、椎間板の内圧も座位姿勢時に比べ、約6分の1まで低下することが報告されています4)。
もし、30分~1時間座り続けているならば・・
たった、5分間で良いので、仰向けで寝るようにしてください
ただし、同じ寝る行為であっても、座ったままでは椎間板内圧が高い状態のままとなっていますので、椅子ではなく、仰向けでからだを休めるようにしましょう。
積極的に腰や背中の筋を休養させることで、筋は収縮効率が回復し、また、座って重力と戦うことができるようになります。
ちなみに、背筋を伸ばして座ると自分自身に対する自信が高まることが報告されています5)。
大事なプレゼンテーションの 前に、たった5分に寝るだけで
試合の控えの場面で、たった5分、寝た状態で試合を観戦するだけで
受験が大詰めを迎え、集中して勉強したい時に、勉強の合間にたった5分寝るだけで
あなたの人生が大きく変わるかもしれません。
座位における積極的休養の在り方とは、短時間、高頻度に寝ることで、積極的に腰や背中の筋肉を休ませることであると、私は考えます。
文献
1)弘 卓三・森田恭光(編)スポーツ・健康科学テキスト 杏林書院 pp. 80-90
2)本多麻子.積極的休息による作業課題のパフォーマンス改善と 自覚疲労の回復効果. 東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 22 号(2015)
3)和泉光保.暗算における積極的休息が暗算作業量に及ぼす影響について 近畿福祉大学紀要 , 8, 139-144.
4)菊池臣一:腰痛,49-108.医学書院,2003
5)Brinol,P,Petty,PE,Wagner,B.Body posture effects on self-evaluation:A self-validation approach cartoons.Eur J Soc Psychol,39:1053-1064,2009