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Sitting is the New Smoking

■座ることとは、タバコを吸うことと同じ?

これは、CADソフトウェアメーカーであるオートデスク社の元幹部であり、ビジネスライターのニロファー・マーチャント氏の言葉です。

 

氏は喫煙にも似た「座りすぎ(Too much sitting)」の危険性を提唱しています。

 

氏によると、人が座って過ごす時間の長さは一日平均9.3時間にもなり、平均睡眠時間の7.7時間より長く、長時間座った状態が中心のライフスタイルを続けると、乳がん、結腸がんは10%、心臓病は6%、II型糖尿病は7%、発症リスクが高まるといいます。その為、氏は、会議室でのビジネスミーティングをやめ、散歩をしながら会議を行う「ウォーク&トーク・ミーティング」という手法を推奨しています。

 

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■座位時間と健康との関連性

氏が座位時間の危険性を提唱する理由には、座位時間と健康との関連性が近年注目され、様々な事実が明るみになってきた背景があります。

 

 Van氏ら1)は,一日の総座位時間が 4時間未満の成人に比べて、4~8時間、8~11時間、11時間以上と長くなるにつれて総死亡リスクが11%ずつ高まることを報告しました。

 

この報告が興味深いのは、WHO(世界保健機関)が推奨する身体活動量に満たっていても関係なく総死亡リスクは高まった結果にあります。同じような報告が他にもあり、Matthews氏 ら2) の報告によると、余暇に週当たり7時間以上の中高強度の身体活動を実施していても、関係なくテレビ視聴時間が1日7時間以上の成人は、1時間未満の成人と比べて総死亡リスクが47%,冠動脈疾患死亡リスク は2倍も高かったとされています。

 

つまり、余暇の高強度の運動が習慣化されていても、日々の座位時間が長ければ、運動習慣に関係なく死亡リスクは高まるというのです。

 

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■日本人は「座り過ぎ」な国民である

実は、私達日本人は、世界の中でもかなり「座り過ぎ」な国民である事が2011年に明らかになりました。

 

Bauman氏ら3)の報告によると、世界20カ国(先進7カ国を含む20カ国)の一日の平均総座位時間が300分(=5時間)であるのに対し、私達日本人はなんと、420分(=7時間)であったが判明しました。これはサウジアラビアと並んで20カ国上最長の時間という結果でした。

 

一日の平均総座位時間が7時間。睡眠時間が平均7時間と考えた場合、起きている時間、すなわち覚醒時間は17時間ですので、座位時間が7時間でも10時間が座位時間ではなかったと考えると、なんとなく健康に問題ない時間のようにも思えます。しかし、一概にはそうは言えなさそうです。

 

■驚くべき「座位行動」の事実

Owen氏ら4)~5)は、米国やオーストラリアでの成人の一日覚醒時間における中高強度および低強度の身体活動および座位行動に費やす時間を詳細に調べました。

 

座位行動とは、「座位および臥位におけるエネルギー消費量が1.5メッツ以下のすべての 覚醒行動」と定義されています6)

 

ここで、メッツについて確認しましょう。

 

メッツとは、エネルギー消費量を示し、日常生活における様々な動作のエネルギー消費量を換算する為の指標です。

 

例えば、料理や洗濯などの家事動作、洗顔や歯磨きなどの整容動作は2.0メッツ、散歩や軽い自転車エルゴメーターは3.0メッツ、掃除機での掃除は3.5メッツ、スイミングは6.0メッツ、テニスは7.0メッツという具合です。

 

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今回の研究で指標となった1.5メッツとは、ジャグジー、座位でのオフィスワーク、乗り物での移動、食事などとされています。

 

つまり、座位行動とは、ジャグジーや座位でのオフィスワークと同等あるいはより少ないエネルギー消費量で行われる覚醒行動ということです。

では、結果を発表しましょう。

 

米国やオーストラリアの成人では

覚醒時間における中高強度の身体活動(3メッツ以上)の実施状況はわずか5%

低強度の身体活動(1.5~3メッツ)実施状況が35%~40%

 

なんと、55~60%は座位行動(1.5メッツ以下) が占めているという結果となりました。

 

つまり、覚醒時間の約6割がジャグジーや食事、座位でのオフィスワークと同等あるいはそれ以下のエネルギー消費量で行われる行動であったというのです。

 

あくまで米国とオーストラリアでの研究結果の為、私達日本人も同様と考えて良いかは意見が分かれるところですが、私達日本人が、映えある(?)世界20カ国で最長の座位時間を誇る状況である事と考えますと、同等あるいは更に座位行動の割合が多い可能性すら覚えます。

 

ワークステーションの導入 

米国では、仕事中の座位時間の減少を目標に、オフィスにおいて立っても座っても使用できる昇降式のデスク「ワークステーション」の導入が試みられています。

 

このワークステーションを1週間使用すると仕事場での座位時間が143分低下、覚醒時の座位時間が93分低下、終了後も効果が3ヶ月持続、更にHDLコレステロールが減少したとする報告7)や、同様にワークステーションを4週間使用し、仕事中の座位時間が66分/日低下、腰背部痛、頚部痛、気分状態などの主観的健康状態が改善したとする報告8)があり、座位時間の減少への有効性が報告されています。

 

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 私達は、技術革新に伴う生活環境や仕事環境の変化により、いつの間にか二足歩行動物ではなく、「二足座位動物」へと変化してきています。まさに今、健康指導に関わる全ての皆様に、座り過ぎがもたらす健康障害の認識を高める教育の普及と、効果的な解決法の確立が求められています。

 

 

文献 

1)van der Ploeg HP, Chey T, Korda RJ, et al. Sitting time and all-cause mortality risk in ₂₂₂,₄₉₇ Australian adults. Arch Intern Med.2012;172:494-500

2) Matthews C, George S, Moore S, et al. Amount of time spent in sedentary behaviors and cause-specific mor tality in US adults. Am J Clin Nutr..2012;95:437-445

3)Bauman AE, Ainswor th B., Sallis J, et al. The descriptive epidemiology of sitting. A 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ).Am J Prev Med. 2011 Aug;41(2):228-35.

4)Owen N, Healy GN, Matthews C, et al. Too much sitting: the population health science of sedentary behavior. Exer Sport Sci Rev.2010;38:105-113

5) Owen N, Healy GN, Howard B, et al. Too much sitting: Health risks of sedentar y behaviour and opportunities for change. Research Digest published quarterly by President's Council on Fitness, Sports & Nutrition.2012;13:1-11

6)Sedentary Behaviour Research Network. Standardized use of the terms "sedentar y" and "sedentar y behaviours". Appl Physiol Nutr Metab.2012;37:540-542

7)Alkhajah TA, Reeves MM, Eakin EG, et al. Sit-stand workstations: a pilot intervention to reduce office sitting time. Am J Prev Med.2012:43:298-303

8)Pronk NP, Katz AS, Lowry M, et al. Reducing occupational sitting time and improving worker health: the Take-a-Stand Project, 2011 Prev Chronic Dis,2012;9:E154