からだのゆがみが健康に良くない本当の理由
■からだのゆがみは、本当に不健康の原因なのか?
「からだのゆがみを整え、健康なからだを取り戻しましょう」
多くの雑誌やテレビで、からだのゆがみは不健康の原因と紹介されます。
はたして、からだのゆがみは、不健康の原因でしょうか?
からだのゆがみと健康との関係性については、実は随分以前より研究されています。
今から約31年前の報告です。Dieck氏ら1))は、からだのゆがみと健康とに関係性を明らかにする為に、次のような研究を行いました。
まず、女子大学生903名に対し大学入学時に身体計測を行い、からだのゆがみ(左右非対称性)を調べました。次に、卒業後25年間を追跡調査し、からだの左右非対称性と腰痛の出現率との関係性を調べました。
すると、からだのゆがみと腰痛の出現率とは関係性が存在しない事が判明しました。
また、Levangie氏ら2)は腰痛群144名と、健常群138名の骨盤の左右の非対称性を調べたところ、両者に違いが見られなかった事を報告しました。
どちらの結果も、からだのゆがみと腰痛とに関係性がないと報告しています。
確かに、からだのゆがみが顕著でも、肩こりや腰痛にならない人はいます。
つまり、正確な比率は不確かですが、私たちには
TYPE1 からだにゆがみが存在して、からだが健康である人
TYPE2 からだにゆがみが存在して、からだが不健康である人
この2つのタイプが存在していると考えられます。
このタイプの違いを明らかにすると、からだのゆがみが不健康の原因である本当の理由が見えてきます。
■からだのゆがみと時間との関係
両タイプの違いとは何か。それはずばり、
「同一姿勢を続ける時間の長さの違い」にあると、私は考えています。
◆長時間のデスクワークでのパソコン操作
◆長時間の自動車の運転
◆長時間の立ち仕事、腰をかがめた姿勢での長時間の農作業
◆長時間の歯科診療
上記の動作に共通するキーワード。それは、「長時間」です。
きれいに背筋を伸ばした姿勢であっても
首や、背中が丸くなった姿勢であっても
どちらの姿勢も長時間同じ状態であり続けると、からだはストレスを感じます。
見た目の姿勢の良し悪しではなく、長時間、同一姿勢であり続けることが良くない
このことを証明する論文が2015年に発表されました。
Gallaqher氏ら3)は2時間、まっすぐな姿勢で立ち続けた場合に、腰痛が出現する人と、腰痛が出現しない人のからだの特徴の違いを研究しました。
すると、腰痛が出現しなかった人は、腰痛が出現した人に比べ、開始15分間のからだの重心の移動距離や腰椎の動きが大きい事が判明しました。つまり、腰痛が出現しなかった人は、じっと立ち続けているように見せて、実は小刻みにからだを動かし、からだにストレスが蓄積されるのを防いでいたものと考えられます。
■からだのゆがみが健康によくない本当の理由
以上の事をまとめると、次の2つの事が分かります。
POINT① 長時間、同一姿勢を続けると、からだは壊れる
POINT② 様々な姿勢が選択できるからだの可動性が重要
からだのゆがみが健康に良くない本当の理由は、「長時間、同一姿勢を続ける生活習慣を行うから」であり、見た目の姿勢の良し悪しではありません。
だからこそ、アプローチにより、からだのゆがみが一時的に改善しても、同一姿勢を続ける生活習慣を継続していれば、再発を繰り返すことになるのです。
よって、からだのゆがみに対し運動指導する場合は、
①生活指導:長時間、同一姿勢を続ける事が問題であることを指導する
②運動指導:良い姿勢、悪い姿勢もどちらも選択できるようにからだの可動性
を高め、姿勢にバリエーションを持たせる為の運動を指導する
この2つを理解し実践する事が大切と考えます。
<文献>
1)Dieck GS,Kelsey Jl,Goel Vk,Panjabi MM,Walter SD,Laprade MH.An epidemiologic study of the relationship between postural asymmetry in the teen years and subsequent back and neck pain. Spine.1985;10:872-7.
2)Lavangie PK.The association between static pelvic asymmetry and low back pain.Spine.1999;24:1234-42
3)Gallagher KM1,et.al. Early static standing is associated with prolonged standing induced low back pain. Human Movement Science Volume 44, December 2015, Pages 111–121.