腰痛予防には股関節の柔軟性が重要
■腰痛に対する体幹トレーニングの注意点
腰痛予防には、腹筋を鍛える体幹トレーニングを!
腰痛を予防する為、体幹筋の筋力を強化しようと考える人は多いと思います。
確かに、体幹筋の筋力を高めることは腰痛予防において重要です。
しかし、併せて腰部の組織に何かしらダメージを与える行為である事も理解する必要があります。意図的にからだを傷つけ回復後の効果を期待する行為、それが筋力トレーニングです。
今から約50年も前に、Nachemason氏により発表された興味深い研究があります。1)Nachemason氏は、健常者の第3腰椎(おおよそへその高さあたり)の椎間板に圧力センサーを挿入、安静立位時の圧力を100とし、姿勢や動作を変化させ、圧力がどのように変化するかを調べました。
結果、腰痛予防でよく行われる、いわゆるクランチ運動(腹筋運動)では、椎間板の内圧が約2倍まで増加することが判明しました。
クランチ運動は筋力トレーニングであり、同時に椎間板に過剰なストレスを加える運動といえます。よって、椎間板ヘルニアの既往がある人にとっては、クランチ運動により、予防どころか腰痛を再発する危険性すらあります。
また、腰痛の回復課程において、腰部に組織損傷部位が残存している場合、体幹筋トレーニングが組織を更に損傷させる原因にもなります。
腰部にストレスを加えることなく、腰痛を予防する為にはどのようにすれば良いのでしょう?
■腰痛予防には、股関節の柔軟性が重要
体幹筋トレーニングを行わなくても、腰痛を予防できる可能性を示唆する、興味深い論文が2003年2)と2004年3)にVad氏らにより発表されました。
Vad氏らは、ゴルフプレーヤーとテニスプレーヤーに見られる腰痛と、股関節の柔軟性との関係性について詳細に調べました。その結果、腰痛になる選手には、股関節の内旋・開排制限が見られることが判明しました。
股関節の内旋・開排制限というのは、うつ伏せに寝た状態で膝を90°曲げ、そのまま足を外側に倒していく際、股関節が固くて外側に倒れない状態をさします。
ゴルフもテニスも骨盤を回旋させる動きをします。
この骨盤の回旋運動には、股関節の内旋方向の充分な柔軟性が必要です。
一般的に「腰をねじる」という言葉を用いますが、腰部の関節は5°程度しか動かず、動きの大部分は股関節が担っています。
つまり、腰痛とは、本来動くべき股関節の柔軟性が低下した為に、本来は動きが少ない腰部の関節を必要以上に可動させ、腰部にストレスを蓄積させた結果生じると考えられます。
このことから、腰痛を予防する為には、股関節の柔軟性、特に、うつ伏せの状態での開排の可動範囲を広げることが非常に有効であると考えられます。
■股関節の柔軟性の高め方と運動指導のポイント
では、具体的な股関節の柔軟性の高め方を紹介しましょう。
まずは、仰向けで寝た状態となり、股関節を少し横に広げ、膝をまっすぐ伸ばした状態とします。その状態のまま、つま先をワイパーのように動かす、あるいは、つま先を内側に倒した状態で反対側の足を上にのせ、10秒程度ゆっくりと股関節をストレッチします。
長時間の座位姿勢は腰痛の原因となる為、避けなければなりません。長時間のデスクワークが必要な場合は、30分~1時間に1度は机から離れ、仰向けに寝た状態となり、上記の股関節を動かす運動を行うと、腰痛を予防するのに効果的です。
ちなみに、体幹トレーニングは、背骨を支える筋肉と背骨を動かす筋肉と分けてトレーニングを行うことが重要です。このことについてはまた改めてお話したいと思います。
<文献>
1)Nachemson AL.The load on lumbar disks in different positions of the body.Clin Orthop.1966;45:107-22
2)Vad VB,BGebech A,Dines D,Altchek D,Norris B.Hip and sholder internal rotation range of motion deficits in professional tennis players.j Sci med Sport.2003;6:71-5
3)Vad VB,Bhat AL,Basrai D,Gebec A,Aspergren DD,Andrews JR.low back pain in professional golfers:the role of associated hip and low back range-of-motion deficits.Am J Sports Med.2004;32:494-7
骨盤のゆがみの正しい解釈
■骨盤は、はたしてゆがむのか?
「骨盤のゆがみ」
雑誌やテレビでよく見る言葉です。
骨盤がゆがむとからだには、肩こり腰痛のみならず冷え性やむくみ、食欲不振やうつなど様々な症状が現れる、なんて紹介しているものもあります。
しかしながら、この言葉にはいくつかの注意が必要です。
そもそも、「骨盤のゆがみ」という言葉は医学用語にはありません。
医学用語にないという事は、病気との関係性は医学で説明できないという事です。
次に、「骨盤のゆがみ」の状態の定義が曖昧です。
①正面から見て、骨盤が左右どちらかに傾斜している状態
②骨盤にある関節(仙腸関節)が、正常な位置よりもずれている状態
どちらの状態も骨盤がゆがんだ状態として説明されます。
前者の状態は、股関節の周りの筋肉の作用により十分起こり得えます。その為、この状態を「骨盤のゆがみ」と言い表すのであれば、医学的に正しいといえます。
後者の状態は、医学的には特別な場合を除き、通常は起こりえません。
■仙腸関節の可動性の真実
Kissling氏ら1)は、1996年、骨盤にある関節、仙腸関節に骨ピンを埋め込み、レントゲンを撮影し、からだを動かした際にどの程度の可動性が仙腸関節に存在するかを研究、論文にまとめました。
すると、前屈動作時に仙腸関節で生じる運動は、
回転運動の場合
男性2.1°、女性1.7°
並進運動の場合
男性0.9mm、女性0.7mm
であり、仙腸関節は非常に可動性が少ない関節である事が判明しました。
当時、仙腸関節は全く動かない関節と考えられていた為、僅かにでも可動性が存在することが判明したことは画期的な発見でした。
その他の研究者の報告2)~4)においても、同様に
回転運動は0.3~3.1°
並進運動は0.7~1.2mm
と可動性に乏しいことが確認されました。ただし、病的な場合において
後屈運動で6.0°
並進運動で2.5mm
可動したとも報告されており、病的な場合や出産時など特別な場合に限り、多少可動性が高まる関節であることも判明しました。
■骨盤のゆがみの医学的に正しい解釈
このように、仙腸関節は大きな動きが生じる関節ではない関節と考えられる為、骨盤がゆがんだ状態を、関節がズレ、骨盤が大きく弯曲するようなイメージするのは、医学的には正しくありません。
骨盤のゆがみとは、骨盤にある仙腸関節がずれていると解釈するのではなく、骨盤の形態は変わらず、前後左右に傾斜、あるいは水平面上で回旋している状態であると解釈するのが、医学的に正しい解釈であると考えられます。
<文献>
1)Kissling RO,Jacob HA.The mobility of the sacroiliac joint in healthy subjects.bull Hosp jt Dis.1996;54:158-164
2)Egund N,Olsson Th,Schmid H,Selvik G.Movements in the sacroiliac joints demonstrated with roentgen sterophotogrammetry.Acta Radiol Diagn(Stockh).1978;19:833-46
3)Brunner C,Kissling R,Jacob HA.The effects of morphology and histopathologic findings on the mobility of the sacroiliac joint.spine.1991;16:1111-7
4)Jacob HA,kissling RO.The mobility of the sacroiliac joints in healty volunteers between 20 and 50 years of age.Clin Biomechech(Bristol,Avon).1995;10:352-61
足組み姿勢は、からだに悪い姿勢とはいえない
■足を組むのは、からだに悪いことなのか?
「からだにゆがみを作るから、できる限り足は組まない方が良い」
足を組んだ姿勢も、猫背姿勢と同様に、健康に悪いというのが常識です。
結論から言うと、足組み姿勢は一概にからだに悪いとは言えません。
むしろ、からだが疲れた時には積極的に足を組んだ方が良いともいえます。
Snijders氏ら1)2)は、足を組んだ姿勢と、通常の座位姿勢との違いについて様々な研究を行い、興味深い結果を報告しています。
研究の結果、足を組んだ際に下になる側の体幹(左足が下になる組み方をした場合、左側の体幹)の筋活動は、通常の座位姿勢よりも有意に減少することが判明しました。
これは、足を組んだ姿勢は、からだの消費エネルギーが少なくて済む、非常にエコな姿勢である事を意味します。
更に、足を組んだ際、下になる側の股関節(左足が下になる組み方をした場合、左側の股関節)の梨状筋が伸長されることが判明しました。
梨状筋は、仙腸関節をまたいで付着していることから、骨盤を安定させる作用があると考えられています。上記の結果と合わせると、梨状筋が適度に伸張され、骨盤が安定した結果、骨盤を安定させる役割を担う筋(内腹斜筋や腹横筋)は活動を低下させたと考えられます。
股関節にある梨状筋を骨盤の安定に利用できる点において、猫背姿勢よりも更に進んだ省エネ姿勢といえ、からだが疲れ、エネルギー消費量を節約する時に最適の姿勢といえます。疲れた時に足を無意識に組むのは、この為です。
■足組み姿勢で注意するべき点と指導のポイント
とはいえ、猫背姿勢同様、長時間足を組んだ姿勢を続けることは望ましくありません。
背中の筋膜や背骨を支える靭帯、関節包などの組織に微細なストレスを加え続けることになり、微細な組織損傷が生じ、痛みを感知するセンサー(受容器)が反応する、つまり腰痛の原因になるためです。
加えて、足を組んだ側の梨状筋が伸ばされると、人体最長の神経と呼ばれる坐骨神経にストレスが生じます。(坐骨神経は梨状筋の下や筋の間を貫通するという解剖学的な特徴があります。)
さらに、足を組んだ下側の股関節には、足を組まない状態に比べ、より多くの荷重を受けることになります。結果、坐骨神経に更に強いストレスが加わり、足先がしびれる原因になると考えられます。このような状態を梨状筋症候群といいます。
姿勢指導を行う場合には、足を組んだ姿勢は短時間であれば問題ありませんが、長時間、足を組んだ姿勢が続かないよう、時々足を組み替える、椅子から立って歩く、など短時間に姿勢を変化させることを意識するように指導しましょう。
<文献>
1)SnijdersCJ et al:Why leg crossing? The infruenceof common postures on abdominal muscle activity.Spine 20:1989-1993,1995
2)SnijdersCJ et al:Functional aspects of cross-legged sitting with special attention to piriformis muscles and sacroiliac joints.Clin Biomech 21:116-121,2006
猫背姿勢は、からだに悪い姿勢とは言えない
■猫背姿勢は、からだにとって悪いのか?
「猫背姿勢は、からだに悪い」
猫背は健康に悪い為、まっすぐな姿勢に矯正されるべきというのが常識です。
はたして、この考え方は正しいのでしょうか?
2015年、Pooriput氏ら※)が興味深い論文を発表しました。
Pooriput氏らは、座る時間が長くなるにつれて感じるからだの不快感や、体幹の筋活動が、3つ姿勢(前傾姿勢、直立姿勢、猫背姿勢)毎で異なるかどうかを調べました。
結果、他の姿勢に比べて、猫背姿勢が、最もからだの不快感が少なく、体幹の筋活動が少ない事が分かりました。
体幹の筋活動が少なかったという結果は、からだのエネルギー消費量が少なかったことを意味します。つまり、猫背姿勢は、どの姿勢よりも、からだにとって快適で楽な姿勢だったのです。
猫背姿勢が、からだにとって楽な姿勢であったことには次のような理由があります。
■猫背姿勢が、からだにとって楽な姿勢である理由
人は、からだを支える際、以下の2種類の組織を適度に使い分けています。
1)筋・筋腱
:筋の収縮活動により、関節を安定させ、からだを支えます。意図した姿勢が取れる反
面、筋の収縮活動によりエネルギー(ATP)を消費するのが特徴です。
(専門用語で「収縮性要素or動的安定機構」といいます。)
2)関節包・筋膜・靭帯
:主に結合組織で構成され、伸張刺激に対する張力により、からだを支えます。エネル
ギー(ATP)消費を伴わない反面、組織が伸張される時しか張力が発揮できない特徴が
あります。(専門用語で「非収縮性要素or静的安定機構」といいます。)
猫背姿勢の場合、背中全体が丸くなる事で、背部の筋膜や背骨後方に付着する靭帯、関節包などが伸張され、張力が発生します。この張力は、からだを支えるのを助ける為、筋・筋腱はからだを支える役割は軽減し、収縮活動は低下、エネルギー消費量が低下します。
直立姿勢の場合、筋膜や靭帯、関節包は伸張されず張力が発生しない為、筋・筋腱によりからだを支える必要があり、収縮活動が上昇、エネルギー消費量が増加します。
猫背姿勢は、長時間、同じ姿勢を続ける場面(例、パソコン操作、読書)で見られます。これは、長時間からだが負担を感じる事なく作業を行う為に、からだが無意識に選択した省エネ戦略と考えられます。
■長時間、猫背姿勢のままでいる事が問題
ただし、背中の筋膜や背骨を支える靭帯、関節包などの組織には痛みを感知するセンサー(受容器)が豊富に存在すること、猫背姿勢は、頸部を過剰に反らせる為に、頸部の関節や神経へのストレスが高まりやすいことから、長時間、猫背姿勢を続けることはやはり健康に良くありません。
(※圧迫骨折やヘルニアなど重篤な病気が存在する場合は、時間に関係なく猫背姿勢が問題になる場合があります)
長時間のパソコン操作や読書などを行う際には、まずは背筋を伸ばして行う(収縮性要素を利用)、疲れたら猫背姿勢をとる(非収縮性要素を利用)、その後、椅子から立つ、からだを横にして休める、歩くなど短時間に姿勢を変化させるようにしましょう。
<文献>
※Pooriput,et.al. Perceived body discomfort and trunk muscle activity in three prolonged sitting postures. Electromyography,Pain, Sitting posture.J Phys Ther Sci. 2015 Jul;27(7):2183-2187
からだのゆがみが健康に良くない本当の理由
■からだのゆがみは、本当に不健康の原因なのか?
「からだのゆがみを整え、健康なからだを取り戻しましょう」
多くの雑誌やテレビで、からだのゆがみは不健康の原因と紹介されます。
はたして、からだのゆがみは、不健康の原因でしょうか?
からだのゆがみと健康との関係性については、実は随分以前より研究されています。
今から約31年前の報告です。Dieck氏ら1))は、からだのゆがみと健康とに関係性を明らかにする為に、次のような研究を行いました。
まず、女子大学生903名に対し大学入学時に身体計測を行い、からだのゆがみ(左右非対称性)を調べました。次に、卒業後25年間を追跡調査し、からだの左右非対称性と腰痛の出現率との関係性を調べました。
すると、からだのゆがみと腰痛の出現率とは関係性が存在しない事が判明しました。
また、Levangie氏ら2)は腰痛群144名と、健常群138名の骨盤の左右の非対称性を調べたところ、両者に違いが見られなかった事を報告しました。
どちらの結果も、からだのゆがみと腰痛とに関係性がないと報告しています。
確かに、からだのゆがみが顕著でも、肩こりや腰痛にならない人はいます。
つまり、正確な比率は不確かですが、私たちには
TYPE1 からだにゆがみが存在して、からだが健康である人
TYPE2 からだにゆがみが存在して、からだが不健康である人
この2つのタイプが存在していると考えられます。
このタイプの違いを明らかにすると、からだのゆがみが不健康の原因である本当の理由が見えてきます。
■からだのゆがみと時間との関係
両タイプの違いとは何か。それはずばり、
「同一姿勢を続ける時間の長さの違い」にあると、私は考えています。
◆長時間のデスクワークでのパソコン操作
◆長時間の自動車の運転
◆長時間の立ち仕事、腰をかがめた姿勢での長時間の農作業
◆長時間の歯科診療
上記の動作に共通するキーワード。それは、「長時間」です。
きれいに背筋を伸ばした姿勢であっても
首や、背中が丸くなった姿勢であっても
どちらの姿勢も長時間同じ状態であり続けると、からだはストレスを感じます。
見た目の姿勢の良し悪しではなく、長時間、同一姿勢であり続けることが良くない
このことを証明する論文が2015年に発表されました。
Gallaqher氏ら3)は2時間、まっすぐな姿勢で立ち続けた場合に、腰痛が出現する人と、腰痛が出現しない人のからだの特徴の違いを研究しました。
すると、腰痛が出現しなかった人は、腰痛が出現した人に比べ、開始15分間のからだの重心の移動距離や腰椎の動きが大きい事が判明しました。つまり、腰痛が出現しなかった人は、じっと立ち続けているように見せて、実は小刻みにからだを動かし、からだにストレスが蓄積されるのを防いでいたものと考えられます。
■からだのゆがみが健康によくない本当の理由
以上の事をまとめると、次の2つの事が分かります。
POINT① 長時間、同一姿勢を続けると、からだは壊れる
POINT② 様々な姿勢が選択できるからだの可動性が重要
からだのゆがみが健康に良くない本当の理由は、「長時間、同一姿勢を続ける生活習慣を行うから」であり、見た目の姿勢の良し悪しではありません。
だからこそ、アプローチにより、からだのゆがみが一時的に改善しても、同一姿勢を続ける生活習慣を継続していれば、再発を繰り返すことになるのです。
よって、からだのゆがみに対し運動指導する場合は、
①生活指導:長時間、同一姿勢を続ける事が問題であることを指導する
②運動指導:良い姿勢、悪い姿勢もどちらも選択できるようにからだの可動性
を高め、姿勢にバリエーションを持たせる為の運動を指導する
この2つを理解し実践する事が大切と考えます。
<文献>
1)Dieck GS,Kelsey Jl,Goel Vk,Panjabi MM,Walter SD,Laprade MH.An epidemiologic study of the relationship between postural asymmetry in the teen years and subsequent back and neck pain. Spine.1985;10:872-7.
2)Lavangie PK.The association between static pelvic asymmetry and low back pain.Spine.1999;24:1234-42
3)Gallagher KM1,et.al. Early static standing is associated with prolonged standing induced low back pain. Human Movement Science Volume 44, December 2015, Pages 111–121.
からだのゆがみは、自然現象である
■からだにゆがみがない人は存在するのか?
多くの雑誌やテレビで
「からだがゆがむと不健康になる」
「からだのゆがみを矯正しなければ、健康になれない」
という話が紹介されます。
しかし、そもそも、「からだにゆがみがない人」は存在するのでしょうか?
■からだに自然と備わる、「機能の一側優位性」
私たちのからだには、「利き手」「利き足」と呼ばれる
「機能の一側優位性」というものが存在します。
実は、この機能の一側優位性、3歳頃にはすでに存在するものと考えられています。
幼児257名を対象に調査したところ、約80%の幼児が、右側が利き手、利き足であり、足の成長も左右に違いが見られることが確認されました。1)
この事実は、成長に合わせ、からだの関節の柔軟性や筋力の強さには左右差が作られる事を意味します。
例えば、ボールを蹴る動作で考えた場合、利き足側の股関節は、様々にボールを蹴る事が求められますので、自然と関節の可動性や筋肉の協調性が高まります。一方、軸足側の股関節は、利き足が効率よく動くために、からだを安定し支持する事が求められる為、自然と関節の可動性は少なく、筋肉の持久性が高まります。
握力は右側が強い人が多いですが、これは右手の握力だけを選択的にトレーニングしたわけではありませんね。機能の一側優位性が存在する結果、日々の生活の中で自然と備わった左右差です。
筋肉は関節をまたいで付着している事から、筋肉の緊張状態や伸張性が左右不均等であれば、当然に骨格アライメント(骨配列のこと)も左右不均等となります。よって、肩の高さや腰の高さは自然と左右が非対称になり、からだはゆがみます。
この機能の一側優位性は一過性のものではなく、生涯に渡り継続するものと考えられますので、からだのゆがみは、成長によりからだに備わる自然現象といえます。
■からだのゆがみは、生活環境と生活習慣に修飾される
また、からだのゆがみは、生活環境や生活習慣により修飾されます。
例えとして、家庭のキッチンに当てはめて考えてみます。
キッチン周りには、いつも決まった位置に調理器具や食器が並べられています。そして、毎日何時間も繰り返し同じ手順で調理し、食器を片付ける、という動作を繰り返します。
すると、からだは無意識に動作の効率性を高めるような姿勢や、一定の動きを繰り返すようになります。これは、ある種の適応反応ともいえます。
この適応反応の前提には、利き手や利き足といった機能の一側優位性が存在します。結果、筋肉の発達や関節の可動性に左右差が生まれ、からだのゆがみがより顕著となる可能性があります。
■からだのゆがみは、スポーツ習慣にも修飾される
更に、からだのゆがみはスポーツ習慣にも修飾されます。
多くのスポーツには「フォーム」と呼ばれる一定の型が存在し、選手は正しいフォームでからだを動かす事が要求されます。同一の動作を繰り返す結果、からだにゆがみが作られます。
Reibeiro氏ら2)の研究によると、健康なバレーボールやハンドボール競技者を対象に肩甲骨の位置を調べた結果、利き手側と非利き手側の肩甲骨の位置には明確な違いが認められたことが報告されています。左右が対象ではない、つまり、からだはゆがんでいました。ここで重要な点は、対象者が健康であるという点です。健康な人でもからだはゆがんでいるのです。
■からだのゆがみは、誰にでも存在すると考えた方が自然
以上のことから、利き手利き足などの機能の一側優位性の存在、加えて生活環境や生活習慣、スポーツなどの運動習慣の影響により、私たちのからだには、自然と左右の非対称性が形作られます。
からだのゆがみは、誰にでも存在すると考えた方が自然だと思われます。
となると、次に疑問を覚えるのは、「からだの不健康の原因とは何か」という事です。この事については、次のコラム、「からだのゆがみと健康」について、詳しく解説します。
<文献>
1)荒木智子、鳥居俊:足部形態の発育と手足の機能分化の検討.理学療法-臨床・研究・教育 14:34-41,2007
2)Ribeiro A,er al:Resting scapular posture in health overhead throwing arthlets.J Athl Ther 18:547-550.2013